曖昧な箱庭
美少女思う、故に美少女あり。
「ねえ、ねえちょっと」
「はあ……なに……」
「ボクの美少女レーダーが反応してるんですけど」
「そんな某目隠れの妖怪少年みたいに……」
いやいるね、絶対いる。と、俺と同じ顔をした人生の先輩(一ヶ月)はずんずんと街を練り歩く。お前は絶対スカウトやった方がええで、などといつもは冗談めかして言うのだが、わりと適性はあるはずだ。
角を曲がる。なぜか少しざわめく人々。
「ほら、いた」
あー。確かに。長髪でスレンダーな美少女が……なにかを追っていた。
「まてまてー」
まてまてー。そんなセリフ、アニメでしか聞いたことない。
モーセが海を割るみたいに、彼女が通る先に道ができる。今井はヒールを履いている彼女が追いかけるなにかを正面から捕まえた。
「……え、ビニールなんだけど……」
と、姉なのか兄なのかわからんやつはせっかく見つけた美少女の挙動に不安を覚えたようだった。
ポイ捨て撲滅主義だろうか。いいことではある。
今井の正面まで辿り着いた、桃色とマスカットのようなツートーンのキューティクル全開の髪をした少女は、今井の手に雑に握られたビニールを見て、ややっ? と呟いた。なんだか、言動とビジュアルのクールさが全然噛み合わない。
「白猫だと思ったんだけどな」
「白猫……?」
「そう、白猫」
「…………このビニールが?」
「ああ、そうだが?」
「……きみ、よく変だって言われない?」
ド直球な今井に、美少女はなぜか得意げな顔をした。
「変だと言われようとも、ボクには、美少女という免罪符がある!」
こっそりと、俺の先輩は耳打ちしてくる。
(ねえ、この子、逸材だと思う?)
返答できない。変だ、たしかに。だが、あんまり嫌な感じはしないし、なんなら……親しみやすさならありそうだ。
「ところで、諸君らはよく似ているが、双子ではなさそうだな!」
正解。
ビシッと効果音のつくような指さしに、今井が堪えきれないと言ったふうに笑う。
そして、あろうことか、様子のおかしな美少女に誘いかけた。
「美少女さん、ちょっとお茶しようよ。きみのこと気になっちゃったよ」
これは、ナンパなんか? 逆ナンなんか? なんなんや……? なににあたるんや……。
なんたって、俺の姉(?)は創作を嗜む人間である。資料になる人間を放っておけるわけがないのだ。
「愛らしいそばかすのどうやら年長者のキミ、美少女は思うのだ。美少女は二人称ではないと。ボクのことは、混合型架空音声体、略して、こんと呼びたまえ! そして、キミの奢りなら茶会のお供をさせていただこうじゃないか」
「へえ。こんちゃん、人間じゃないのかあー」
既に彼女の奇行を人々は忘れ去り、俺たちの隣を足音がすり抜けていく。おおっぴらに人間じゃないことを宣言するタイプは初めて見た。よかった。ギリギリ誰にも怪しまれてはいない。ちなみに俺たちも人間じゃないから、たいした驚きはない。
「ねえ、こんちゃん。こんって、どう書くのさ。平仮名? それとも、キツネの鳴き声みたいなカタカナかな?」
「のんのんのん」
美少女は指を三度横に振って、今井の質問に答えてみせた。
「ケイ、小文字のオゥ、エーーーーッヌ。けーおーえぬ、KoNだ!」
やっぱり、姉はスカウトマンになるべきだ。
この美少女。とんだ逸材かもしれない。
出演:混合型架空音声体Kon・池井ミイ・今井ミイ
※当作品は自己解釈で書かれた非公式作品です。『れぷりかどーる』公式設定ではありません。