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ふしぎいきもの

「……な、なに、これ……」
 その言葉がいちばん似合いそうなカメラの化け物が、困惑の表情を湛えている。その間、鉢から伸びた茎をゆらゆらと揺らしながら、かわいいスマイルを浮かべたお花が鼻笛のような音色を奏でている。耳に心地よく、小さな子どもなんかとくに喜びそうだった。
「この子ね、はなぶえちゃん、だって。ダブルミーニング、パンチきいてていいよね」
「……どこでこんなん見つけるんや……」
 閉店間際の雑貨屋、と答えると、とっくに慣れ親しんだ呆れ顔が炸裂した。行く先々閉店しかけてるのなんなん、というツッコミは無視した。

「押し、売り……?」
「いいや? 可愛いからボクが買ったんだよ。閉店セール、五百円」
 相変わらず横揺れしながら、ぶんぶんぶん、はちがとぶ、とお馴染みの曲をニコニコと演奏し終えると、今度はロンドン橋落ちた、を横笛で鳴らし出す。
「ね? 可愛いでしょ」
 審議。みな、静まり返る。
 おっとこれは……、また何か言われそうだ。
「あー。音はええねん、可愛いし。でも、さっきちらって見てんけど、電源どこにあるん」
 ええ、普通は背面か底にあるでしょー、とはなぶえちゃんを持ち上げてみたが、スイッチはどこにも見当たらなかった。あれ? あれ? とぐるぐる回しているあいだも、演奏はやまない。笛はしっかり小さな手で握られている。絶対離すまい、という強い意思さえ感じられる。
「帰り道はさすがに音鳴ってなかったんやろ?」
 帰り道はたしか、ボクの足元に転がっている茶色い紙袋の中で大人しくしていた。
「うん、静かだったよ。店にいるときは笛吹いてたけど」
 ボクの言葉を聞いて、カメラの怪異であるモコ先生は、はっ、と目を閉じたままなにかに気付いた顔をした。
「ミイ、カーテン閉めて」
 任意のミイがカーテンを閉めると、さっきまで元気だったはなぶえちゃんは、しゅんと、悲しそうな表情をしてうなだれた。
 今度は開けて、と指示されたので、任意のミイがカーテンを開けると、また演奏しだした。途中で演奏をやめたロンドン橋落ちたの終盤から。
「光合、成……?」
「んええ? どういうこと、この子、おもちゃじゃないの?」
「はは、よっぽど高性能なおもちゃか……、ほんまにはなぶえちゃんっていう生物かどっちかや」
 鼻で笑われた。ボクのプライドが許せば、文章中に「w」を入れたい。
「なんかボクって、そういうの引き当てるよねー」
 わはは、と次は森のくまさんを奏でるはなぶえちゃんを撫でる。
 怪異って意外といるもんだ。怪異っていうと、なんとなくホラーみがあるので、ふしぎいきもの、みたいなポップな方がいいのかな。と、頭を巡らせる。
 そして、ボクはいつもこういうとき、自分のことは棚上げである。

 そうだ、ここに人間はひとりもいない。そりゃあ呼び寄せるに決まっている。
 でもそうかあ、はなぶえちゃんが寂しそうなのはちょっと嫌だし、これからの日中は、この写真館に陽の光が増えそうだなー、と、はなぶえちゃんの顔を見つめていると、絵に描いたようなにっこりスマイルをしてくれた。あら、可愛い。


 やっぱり、みんな、みんな、生きてるんだなあ。    

みいを。

 

   

出演:はなぶえちゃん・今井ミイ・池井ミイ・曖昧モコ

​※当作品は自己解釈で書かれた非公式作品です。『13kka』公式設定ではありません。

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